TASC技術とは
「半導体の熱活性」(thermal activation of semiconductors: TASC)とは
1. 有機廃棄物の完全分解
TASC技術は加熱された半導体から発現する強力な酸化力を利用している。TASC処理により、ポリマーのような巨大分子は一瞬にしてエチレン、プロパンのレベルまで裁断化され、裁断化された分子は空気中の酸素と反応して水と二酸化炭素に完全分解される。詳細は以下のTASC技術の概要を参照。
2. TASC技術の概要
強い酸化力と言うことは別の言い方をすれば、「電子を引き抜く力が強い」ということである。一例として、図1に示すようにCr2O3をコージライト組成のハニカム上に塗布した支持体を用意する。この上にプラスチック板を置き、空気中で500 °Cに加熱する。強い酸化力を持つ酸化クロムはポリマーとの接触点でポリマーから結合電子を引き抜き、ポリマー内に不安定なカチオン・ラジカルを形成する。500 °Cに加熱されたポリマーでは、ラジカルはポリマー内を自由に走破し、ポリマー全体を不安定化する。その結果、ポリマーは安定状態を維持できずに、自滅し、小さな分子へと逐次分裂する。これがラジカル開裂と呼ばれる現象である。エチレンやプロパンのように裁断化された分子は空気中の酸素と反応し、水と炭酸ガスになる(完全燃焼)。
この過程を纏めたのが図2で、分解プロセスは、半導体の酸化力による
①ラジカルの生成、
②ラジカル開裂、そして
③小分子の酸素との完全燃焼反応の3つの素過程
から構成されていることが分かる。
さらに重要なことは、ポリマーやタール等の分子は裁断化され、酸素との反応で燃焼するから、ポリマーやタールは熱エネルギーとして100%回収されていることになる。
以上のように、ポリマーのような巨大分子を簡単に分解できるので、FRP(fiber reinforced plastics)のポリマー・マトリックスを分解し、強化繊維を回収すること、ならびにボンド磁石等からレア・アースの回収することは容易である。さらに焼成炉から発生するタールやVOC(volatile organic compound: 揮発性有機化合物)等の分解にも有効である。
図1 Cr2O3を担持したハニカム
図2 TASC法によるポリマーの分解プロセス
3. 酸化物半導体と被分解対象物
TASC法に使用できる半導体は、基本的に高温、酸素下で安定なものであれば良い。基本的には、表1に示す一連の酸化物半導体が対象となり、中でも約2200°Cに融点を持つ Cr2O3が最も安定である。Cr2O3は緑色の無機顔料としてガラス染色(日本酒の瓶をはじめ、ウイスキー、ワインなど)や絵の具等に広く用いられている。
被分解対象物は熱可塑性、ならびに熱硬化性ポリマー、ディーゼル排気ガス、揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compound)、悪臭(odor)、タバコ煙等である。
表1 半導体触媒と被分解対象物
Oxide semiconductors | Cr2O3, NiO, Fe2O3, TiO2, ZnO, etc. |
Thermoplastic resins | PET, PP, PE, PVC, PS, ABS, etc. |
Thermosetting resins | Epoxy, phenol resins, etc. |
Diesel exhaust | Benzene, toluene, PM (particulate matter) |
VOC | Volatile organic compounds |
Others | Odor, tar, tobacco smoke etc. |
4. 板状のGFRPとCFRPの完全分解
FRPから強化繊維を回収し、リサイクルするためには分解システムはシンプルで採算が取れなければならない。この実現の為に、筆者等は図2に示したポリマーの分解過程を再度、詳細に検討し、ラジカルの自己増殖(spontaneous multiplication)効果に注目した。つまり、ポリマー内に生成したラジカルが自己増殖を繰り返し、巨大分子を裁断する過程は自然発生的に起こる反応(spontaneous reaction)であることに気が付いた。従って、FRP内に“種”ラジカル(seed radical)さえ生成すれば、自然発生的に巨大分子は裁断化され、小分子化されたガス状分子は空気中の酸素と反応して水と炭酸ガスになると考えた。言い換えれば、FRPと半導体が一箇所でも接触し、ラジカルが生成すれば、これが開始剤(initiator)となって小分子化が進行すると確信した。FRP基板に“種”ラジカルを生成する開始過程は、単にFRP基板を機械的にCr2O3に接触させるか、あるいはFRP基板にCr2O3の薄膜を塗布するだけで十分である。
図1に示すCr2O3担持ハニカムを用いた前者の例を説明する。ハニカムの上にFRP基板を載せ、さらにもう1枚のハニカムでFRP基板を挟む。これを熱処理すればFRPの分解は進行する。
図3はカーボン・ファイバーFRP(CFRP)の処理前後の写真を示す。
図4は使用前の炭素繊維と回収炭素繊維のSEM像(scanning electron microscope像)である。両者には外見上は全く差異が認められない。
図3 (a) GFRPの処理前 (b) 処理後に露出したグラス・ファイバーの織布
図4 カーボン・ファイバーのSEM写真:(a) 処理前 (b) 処理後